人工心臓

人工心臓は一般的には補助人工心臓と完全人工心臓の二種類に分類される。

補助人工心臓は、心臓の手術等の心不全に対して一時的に用いられるものであり、心機能の回復の後に取り外される。これに対して完全人工心臓は、心臓の全ポンプ機能を代行する人工臓器であり。外科的に心臓を切除した後に埋め込まれる。

補助人工心臓にも全人工心臓にも様々な方式のものがある。

現在汎用されているのは、空気圧駆動型の拍動型補助人工心臓である。図1に臨床応用中の東北大学で開発された補助人工心臓の写真を提示する。

図1 臨床応用中の東北大学型空気圧駆動式補助人工心臓

 

この患者さんは心臓の手術の後、体外循環からの離脱が不能で、自分の心臓だけでは循環を維持することができなかった患者さんである。この患者さんのように補助人工心臓は一般的に人工心臓がなければ生命を救うことができない状態で応用される。現在までに本邦では298例の補助人工心臓の臨床応用が報告されている。日本では補助人工心臓の臨床応用が普及された後も、なかなか長期の生存例が得られないでいたが、1985年、東北大学医学部附属病院において本邦初の補助人工心臓臨床応用の成功例が報告され、日本における臨床への普及が加速した歴史が在る。

東北大学からはその後15例の補助人工心臓の臨床応用が報告されたが、東北大学でも日本全体でも、また世界全体を見渡した成績においても、補助人工心臓をはずして自分の心臓だけで循環を維持できるところまで回復できるのが、補助人工心臓を装着された患者さんの

さんの約半数であり、更に完全に回復して病院を退院し、長期生存に至ることができうるのは更にその半数である。従って全世界的に見ても、また東北大学においても、約75%の患者は長期生存に至ることができない。そこで、例えば補助人工心臓から離脱できない患者さんのためには、次のステップとして完全埋め込み型の補助人工心臓の開発が求められる。現在臨床応用されている図1のような空気圧駆動型の補助人工心臓は胸を直径20mmを超える太いカニューレが2本貫通しており、また小型冷蔵庫ほどの駆動装置から離れることができず、実質的にはベッドに寝たきりに縛り付けられることになる。また胸壁を貫通するカニューレによって感染症の危険からも脱却できない。そこで現在世界中の様々な施設において開発されてきているのが完全埋め込み型の補助人工心臓である。

図2に提示したのは

東北大学で開発中の完全埋め込み型の補助人工心臓システムの概念図である。

図2 完全埋込型補助人工心臓システムの埋込概念図

 

人工心臓の駆動エネルギーは、大学院工学研究科の松木教授らが開発した経皮エネルギー伝送システムによって体外から電磁誘導によって供給される。埋め込まれた電磁駆動型補助人工心臓は流体科学研究所の橋本名誉教授が特許を持つ振動流ポンプシステムであり、駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授が開発中で、人工心臓は大学院医学研究科駆動制御装置は大学院工学研究科の吉澤助教授が開発中で、人工心臓の動物実験に当たっては大学院医学研究科の田林教授にもご協力を願っている。このように非常に多くの研究室によって開発されているまさしく総合大学ならではのプロジェクトである。もちろん世界各地でこの他にも多くの埋め込み型の補助人工心臓システムが開発されており、ロータリーポンプ等を応用した無拍動流型の補助人工心臓もある。HeartMate や、Novacor等の米国で開発された完全埋め込み型の拍動型補助人工心臓システムもあるが、一般的には日本人のような体格の小さい東洋人に埋め込むには若干大きすぎると言う批判は否めない。

完全人工心臓は、文字通り心臓の全機能を代行しなくてはならないので、より要求される条件は厳しいことはもちろんである。全機能を代行するためには、何もシステム全体を埋め込む必要はないと言われており、図3に提示するような体外に設置された両心バイパス型の人工心臓も在る。

図3 両心バイパス型完全人工心臓の慢性動物実験

 

この山羊の自然心臓は電気的に停止させているので、全心機能は人工心臓によって維持されている。このシステムによって同一個体での自然心臓循環と人工心臓循環を比較検討することが可能になるので、病態生理学的に興味深い実験を行うことができる。人工心臓のカオス解析などはこのシステムによって得られた興味深い実験成果の一つである。またもちろん心臓を切除して埋め込む置換型の完全人工心臓も世界中の多くの施設で開発が進められつつある。

図4 空気圧駆動型完全置換型全人工心臓と試作システム

図4は東北大学で開発された空気圧駆動型の完全置換型の人工心臓である。PVCペーストで成形され、坑血栓性を向上させるために内面をポリウレタンでコーティングしている。

耐久性を向上させるためにシリコンボール弁を応用したシステムであり、現在は山羊を用いたフィッティングスタディの段階である。

現在アメリカではこのような完全置換型の人工心臓を電磁駆動型にして開発する方向性で研究が進められており、ペンシルバニア大学等で開発が続けられているが、FDAの認可が下りる基準が85kg以上の大人が目標とされており、殆どの日本人には大きすぎる開発目標となっている。そのため日本でも現在東洋人向けの人工心臓を目指して開発が継続しており、東京大学では電磁駆動型の完全埋め込み型のシステムを用いて山羊の31日間の生存に成功している。国立循環器病センターでも腹腔にモーターを埋め込む独自のシステムを開発しており現在まで10日間の生存に成功している。東北大学でも最近は流体科学研究所の圓山教授らのペルテェ素子を用いた人工心臓アクチュエータによる開発を進めている。このシステムを応用すると簡便で耐久性の高い安価なシステム構築が可能となるので、新世代の人工心臓として注目されている。

欧米で開発された人工心臓も元はと言えばベンチャー企業の開発と政府からの援助が基本になっており、東北大学のシステムも地元に立脚したベンチャー育成の立場からの開発研究を行ってく必要があるかもしれない。