テキサスベイラー大学人工心臓研究部


 

テキサス州ヒューストンに存在するベイラー大学はそもそもは戦火迫る1942軍医要請のために設立されたというお話ですが、戦後まで三流医科大学に過ぎなかったそうです。それが飛躍的に発展するのは、医学生なら誰でも知っている解離性大動脈の分類などに名を残すマイケルドベイキー博士が学長に就任してからでしょう。

経営陣が大学を立て直すために、若手に全権を任せるしかないと、ドベイキー博士は若干四十代にして、要請されて学長に就任したそうで、多少若返ったとはいえ、現代の日本の大学の現状では考えられない大英断といえましょうか?

自ら人工血管を作成する若き日のドベイキー博士(人工心臓展示館より)

 

 ドベイキー博士はなんと学長在籍期間、実に五十年??!?という、考えられない在籍期間でベイラー大学の名前を世界に冠たる不動のものとした後、つい先日、学長だけは退いたそうですが、96歳になる今日でも毎日手術を行っているそうです。

 心臓外科の生きる伝説を長として最先端の研究施設を整え、各方面の研究に力を注いできたベイラー大学が、種々の研究領域の中でも特に力を入れてきたのが人工心臓開発。

世界初の人工心臓の臨床はテキサスで行われましたが、用いられた人工心臓はドベイキー博士のラボでリオッタ博士などにより開発されたものでした。

現在は、クリーブランドクリニックの人工心臓研究所長であった能勢之彦教授を招聘して人工心臓研究の責任者として精力的に研究を推進しています。

現在、人工心臓の分野では、軸流ポンプ、遠心ポンプのようなロータリー型の無拍動流を持つ人工心臓がトピックになっています。特に小柄な日本人の場合、欧米で開発された完全置換型人工心臓は到底埋め込めず、85kg以上の体格が必要といわれています。補助人工心臓も欧米で開発された拍動型のものは、まず大人の男の半分くらいにしか埋め込めないといわれています。

人工心臓展示館より、拍動型埋め込み式補助心臓

 

その点、ロータリーポンプは、心室のような袋のスペースが要らないので小型化については有利で、メーカによると子供にも埋め込み可能とされています。

世界で最初に臨床応用されたのは、能勢先生が開発の中心になったマイクロメッド社の軸流ポンプでした。NASAの技術者が開発の中心になったようで、昔はNASAポンプと呼ばれていましたが、いろいろ商標登録上の問題があったようで、現在はマイクロメド社のポンプと呼ばれており、後続のハートメイト2、ジャービク2000、インコアなどの軸流ポンプと覇を競っています。

マイクロメド社の軸流ポンプ、私が持ってもこんなもの。

 

 軸流ポンプに有利な点は、なんと言っても小型化可能なことで、ポンプを図のようなスクリュー型人工心臓以上に縮小するには、近年進境著しいナノマシン工学、マイクロマシーニング技術の更なる飛躍的進展が必要でしょう。不利な点は、脈がないことと、定常流であるために、わずかな血液の淀みでも拍動でウオッシュアウトされることがなく、たちまち血栓形成や溶血の原因になってしまうことなどです。

また、同じ回転式ポンプでも、遠心ポンプタイプのものは、スクリューよりはインペラー部分が大きく、ゆっくりした回転で容易に拍出が得られるので、溶血の面でも、耐久性の面でも比較的有利といえます。

逆にそのために三ヶ月持てばいいというスタンスで軸流ポンプの臨床が先んじた面もあります。

話題の遠心ポンプに関しても現在、ベイラーではジャイロポンプの両心バイパスの開発研究を精力的に推進していました。

講演は、日本から訪れた研究者を交えて行われ


T.Yambe, Artificial Organ Development in Tohoku University

M.Yoshizawa, Automatic control algorithm of Rotary Blood Pump

S.Mochizuki Undulation Pump Project in the University of Tokyo

Y.Shiraishi Project Artifical Myocardium

人工臓器の泰斗たる能勢教授の前で、図々しく日本の現状を紹介してまいりました。

吉澤教授の講演は、特に現在のトピックである無拍動人工心臓制御に関して数々の質問を受け、白石先生の人工心筋プロジェクトも能勢教授から多大な期待の言葉を受けていました。

実験室を見せていただきましたが、何故かタイミング悪く、私たちが見学していた実験中折悪しく牛が心室細動に至り、実験中断のやむなきに至っていましたが、すべての標本をきちっと整理して保存してある蓄積には圧倒されました。狭い日本の医学研究機関には、とてもあんなにたくさん横に並べておくスペースはありません。

その後、ベイラー大学に併設された人工心臓展示館を視察し、多くの歴史的人工臓器の実物に触れて、歴史の浅いはずのアメリカにおける最新科学研究の蓄積の深さには感銘を受けました。商売になるはずがない多くの人工臓器を借り集めて一同に展示するのには、ある種の心意気を感じます。

驚いたことに現在能勢先生が進めているプロジェクトは、日本政府のNEDOグラントによるものでした。

政府が日本の大学にグラントを持ってこずに、アメリカに頼るのは口惜しい感じもしますが、あのきちっと整理された標本はグラントに値するものと認めなくてはならないかもしれません。

能勢教授は、東北大の人工心筋プロジェクトにも興味を持たれ「是非、一緒にやろう!」ということでしたので、今度は日米共同研究計画のためにヒューストンを訪れたいものです。

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